頭ポンポン

仕事

先日のブログで…
秋の風になってきたと書いていましたが…

秋?

このクソ暑い日々が秋?

ごめんなさい。

一瞬頬にあたる風が秋の気配だな~と感じただけで汗だくに動き回る日中はまだまだ激暑でした。

もう8月も終わると言うのに秋なんぞまだまだきそうにありません。

そして家の中では好みの温度でエアコンをつけることが出来ますが職場となるとそうもいきません。
着替えのTシャツを2枚持っていきますがどれも汗まみれになってしまい帰宅して洗濯機に放り込むときに


わたし
わたし

あ~今回も激務だったわぁ

楽ちんなはずの仕事ですが最近は紙切れがちぢれてボロボロになっているような感じで帰宅しています。

一体どうしたものか。
どうしたらいいのか。


悩んで一晩で2キロ体重が減って帰ってきます。


漁師さん

一番最近入所されたフクイさんに手こずっています。

フクイさんが入所されたのは8月の頭でわたしはしばらくお休みになっていてお会いしたのはもう落ち着いた頃になっていました。

利用者さんと言うのは入所すると慣れてない環境なので最初は落ち着きません。
それは寝れないやら知らない職員との接触やなんと言ってもベッドの位置からその施設の時間系列の違いやら…

住んでおられた施設やおうちと違うので本来の姿ではない態度をされてしまうことが多いです。

そんな時に初対面である夜勤に出勤をし…
事務所で他の職員さんにまず聞いてみました。


わたし
わたし

確かフクイさんとおっしゃいますよね

どうですか~?



とタイムカードを押しながら着替えていると



お姉様
お姉様

あぁ….

不穏な雰囲気となり



わたし
わたし

入所されてもう10日以上経ちますし

落ち着かれていますよね?



確認するようにフクイさんの様子を聞くと



多分…
今まで入って来た人の中で一番




お姉様
お姉様

ややこしいかもしれん

わたし
わたし

ぇ….

暴言ですか?
暴力ですか?


お姉様
お姉様

それはないねんけどな

わたし
わたし

なら一体どうして….

お姉様
お姉様

ま 行ってみたらわかる

ぇ…
今までで一番やっかい…


ぇ~
わたしがこの施設に入ってからでも相当ややこしい利用者さんはいました。
暴言や暴力 セクハラ 深夜徘徊 ケンカなどなど。

それでもお姉様達が今までで一番かもしれないと言う言葉にビビりなにが今までで一番やっかいなんやろと思いながらまずご挨拶に居室に向かいました。

わたし
わたし

初めまして~今日の夜勤の〇〇と申します~

フクイさん
フクイさん

…….

わたし
わたし

後でまたお下の交換しに来ますね~

フクイさん
フクイさん

…….

何を話しかけても返事をしないフクイさん。
もしかして会話不可なのかなぁ…

サマリー(カルテのようなもの)を読んだ限りではADLもそう悪くない。
歩ける 自分で食べれる 夜だけオムツ 既往症は軽い認知症と高血圧ぐらい。

うーん。


事務所に戻りお姉様達に


わたし
わたし

返事しませんけど会話不可ですか?

そう聞くと


会話は不可ではないけど返事したくないんちゃうか。



わたし
わたし

返事をしたくない….

ふ~ん。
ふ~ん。


初対面なのでもしかして人見知りかも。


こういった場合どうしたらいいのかを考えるのがわたしは結構好きです。


年齢は82歳。
昔は漁師さんをしていた。
60歳で初めて結婚された。
お子さんはいない。

これだけの情報でフクイさんにどう対処したらいいのかを頭で組み立ててどの方向からお話をしつつ信頼関係を築いていけるかをラウンド(オムツ交換)の時間が来るまで悶々と考えだしました。


すべて拒否

ラウンドの時間になりフクイさんの居室に伺いました。

今からお下の方交換させていただきますね~とお声をかけて布団をめくろうとすると


しわがれ声で



フクイさん
フクイさん

そんなんせんでええーっっ

 拒否かいな….



せんでええーと言われてもそんな訳にはいきません。
あ。
でもお姉様達が言ってたなぁ…




お姉様
お姉様

オムツ交換拒否るから飛ばしたらええわ

飛ばすと言うのは拒否された場合1回その交換をせずに次にすればいいと言う意味ですが飛ばしたら漏れて後が困るのはわたしなのでまずはどんなおしっこの量なのかも確認したいわけですね。

正攻法でいってしまったことを反省しベッドの下に座り話かけてみました。

これはベッドの横に立ちながら声をかけると上から見下ろすことになるので威圧感が生まれてしまいます。
そこで下に座りながら(うんこ座りとなりますが)






わたし
わたし

フクイさん お下交換しないと気持ち悪いですよね

見上げる形になりあなたが気持ち悪くなりますよ的な…替えた方が気持ちがいいですよ的な。
お伺いを立てるような目で言ってみますと黙り込みました。

以前の記事でも書きましたがしてあげるから~と言う風には絶対に言わずにさせてもらえると嬉しいわぁとお願い方式で?
昭和のおじいちゃん対応をしてみると黙り込んだのでこれはいけると思いお布団を再度めくってみました。



するとお布団をめくっただけなのに



フクイさん
フクイさん

痛い痛い痛い 痛いーっっ

どこも触ってはいません。
お布団をめくっただけなのに痛い痛いを連呼するフクイさん。


わたし
わたし

どこが痛いんですか?

フクイさん
フクイさん

痛い言うてるやろ~いらんことすんなーっ

あぁ….
お姉様達が言っていた今までで一番やっかい。
これかいな。


でもわたしはまだ今までの経験の中でいけてた引き出しの箱を持っているつもりでした。



ふーん。
ふーん。


お布団をめくると痛い。
痛いわけないのに痛いと言う。
これはオムツ交換を拒否というものではなくわたしを拒否してるんやわ。


んじゃまずわたしを受け入れてもらえるようにしないとあかんな….


そこでサマリーに書いてある少しの情報を引っ張りだしてみました。



わたし
わたし

フクイさん 昔は漁師さんをされていたんですね

入所情報にそう書いてありましたが漁師さんってテレビで見たことありますよ海の男だったんですね~

一瞬顔がピクっとなったのを見逃すはずはありません。


わたし
わたし

どんなお魚取ってたんですか?

しわがれ声でしかも小声。
痛い痛いと叫んでた時には大声でしたが通常の会話はほぼ聞き取れないぐらいのぼそぼそ声のフクイさん。


わたし
わたし

大きな船に乗ってたんですか?

すごいですね~
漁師さんってカッコいいですよね~
わたしお魚大好きなんですよ
いいなぁ
いつもお魚取ってきておうちでも食べてたんですね。
最近お魚高いから買えないんですよね。

しばらくするとフクイさんが




フクイさん
フクイさん

カツオとよこわ

よっしゃやったー
返事をしたと言うことはいけるはず。


わたし
わたし

うわーよこわってマグロの赤ちゃんですよね

あれ柔らかくて美味しいですよね。
スーパーでも滅多に見ないけどたまーに売ってると絶対に買うんですよね。
よこわ取ってたんですね。

昔スーパーの鮮魚売り場で働いていたこともありちょっとだけお魚の知識があるので



わたし
わたし

よこわからマグロになる大きさってどれくらいの差があるんですか?

こんなことを質問し始めると聞き取れない声で返事をし出すフクイさんに




わーすごーい
わーカッコいい~


ホントに思ってますよ。
嘘は見抜かれてしまうので漁師さんであった頃のフクイさんを想像しつつ海の男ってカッコいいですよね~

でも嵐があったり大変なお仕事ですよね。

体張って海に出ていかれていたであろうフクイさんを労いながら

がんばってこられたんですね


そう言うとアゴで足元をクイクイっと見ながらジェスチャーでめくっていいよと言う動作をされました。



わたし
わたし

お下交換させてもらってもいいですか?

返事はないもののお布団をめくってももう痛いとは言いませんでした。


まだ初日。
これからフクイさんに信用してもらい寄り添っていけたらいいなぁと1回目のラウンドが終りました。




朝の挌闘

この夜はラウンドそれぞれ無事に済ますことが出来てホッとしたわたしは朝の計画を立てました。

利用者さんが少ないうちの施設ですが居室対応が6人。
自分で食べられる人も食介(食べさせる行為)の人もいます。

食堂に来てご飯を食べる人が来る前にまず〇〇さんに先に持っていって食べてる間に〇〇さんのオムツを交換して帰りに〇〇さんのお膳を取ってきて口腔ケアをして降りてきたら〇〇さんのオムツ交換をして….

フクイさんの朝は初めての経験なのでいつもの順番ではなくスムーズにいくかどうかフクイさんから行こう。
そう決めて居室に伺いオムツ交換の後にギャッチアップ(背もたれを起こすこと)をしながら

わたし
わたし

お腹空いたでしょ~朝ご飯にしましょうか

するとフクイさん



フクイさん
フクイさん

いらんっっ

嘘やろ。
いらんときたか。



フクイさーん
一晩何も食べてませんよね。
お腹空いてはるでしょ?
甘いパンは好きですか?
コーヒー牛乳温めてあるので飲みましょうね。


そう言っても

フクイさん
フクイさん

いらん言うたらいらんっっ

朝のクソ忙しい時にいらんとか…


フクイさんの場合見守りと言う指令が出ているので朝食を食べ終わるまで見ていないといけません。
それがいらん…

うーん
うーん。


まだ起きたてなのでそう言うのかもしれません。
一旦引き下がってギャッチアップした背もたれを戻し


わたし
わたし

んじゃ後でお持ちしますね~

あかん。
どうしたものか…


利用者さんは晩御飯が早いので朝食をみなさん待ち望んでいます。
お腹を空かせている利用者さんに早く食べさせてあげないと….

居室対応の人達に朝食を運び食堂に来る人達にもバイタルを計りつつ朝食を出しながら手引き誘導しないといけないおじいちゃんもいました。

お連れして椅子を引きながら朝のご挨拶をし


一つ一つの仕事を様子を見ながら進めつつフクイさん….
うーんどうしたらいいのかを頭の隅で考えながらほぼ全員の朝食が終りました。


再度居室にお伺いすると今度は寝たフリをしているフクイさん。


もう1時間は経っているので起きているはずなのに顔を横に向けて一切無視です。



わたし
わたし

フクイさーん パン一口だけでも食べてみませんか?

フクイさん
フクイさん

……

喉乾いてませんか?
コーヒー牛乳だけでも飲んでみましょうか。
お茶は?
ゼリーもありますけどどれが好きですか?


こんなやり取りの間も一切スルーのフクイさん。



うわぁ…
これ困ったなぁ…


介護の世界では食事を取らなくても必ず出ているお薬を飲んで貰わないといけません。

何を言っても無視のフクイさんにどうしたらいいんだろう。
はぁ….


食事や飲み物のことは一旦置いておいて漁師さんの話をまた引っ張りだすか。


そう思い



わたし
わたし

そう言えば漁師さんって大阪でされてたんですか?

漁師さんをしていた場所は知っています。
でも会話を引き出してなんとか食事や薬をスムーズに進めるために返事をさせようと思ったんですね。



ところが朝のフクイさんは何を問いかけても話題を変えても一切返事をすることはなくこの朝は朝食も薬も拒否になってしまいました。




引き離したご夫婦

フクイさんは系列の施設から来られた方です。

ご夫婦で入所されており奥様の方は手のかからない介護度の低い人だそうでフクイさんもそう高くない利用者さんでした。
歩ける 自分で食べれるとそう書いてある情報に反してうちの施設にこられた当初から歩けない 車椅子誘導 食事は見守りどころか食介になっています。しかも口を開けない。全て拒否。


何故にご夫婦で入所されていたのに引き離したのかわたし達にはそれはわかりません。
ただいつもどーりややこしい利用者さんをうちに回すと言うやり方をするのでうちの職員さん達はみんな激怒しています。

ずっと今までご夫婦で暮らしていたのに引き離す…
手がかかると言ってもご夫婦を引き裂くなんて簡単なものではありません。

人は物ではないのですから。

フクイさんは奥様が傍におられないので投げやりになってしまったんでしょうね。

きっとフクイさんは奥様もおられた施設でのんびりしていたのにちょっとわがままな昭和のおじいちゃんに手を焼いた職員からの嘆願でうちの施設にとなったんだと思います。

こっちの施設でも職員みんなが精神が消耗していきフクイさんをどうしたものかとみんな悩んでいました。
でも来られた以上何がなんでもこなさないといけない。


そして食事もお薬も拒否のフクイさんのことをナースさんに連絡しますと

ナースさん
ナースさん

お薬は大事なものなのでどうしても飲ませてくださいね

どうしてもって拒否るのに一体どうやって飲ませたらいいんですか?



ナースさん
ナースさん

それは時間を置いて様子を見るとか

わたし
わたし

勿論そんなことは試しています

ナースさん
ナースさん

飲ませてもらわないと困ります

そんなこと言われても….




ゼリーに混ぜたりコーヒー牛乳に混ぜたりあの手この手であれこれ試してみましたが何と言っても口を開けません。


全てを拒否。



職員さん全員を拒否しているわけではなく数人の固定の人のことは拒否らない。
これ一体どうしてなんだろう….

3人だけ拒否をしない人にも勿論聞いてみました。



お姉様
お姉様

うーん ふつーにいけるけどな

拒否されてない人もわからんな~それはと言うだけでその他の拒否されている職員達は日々段々と暗くなっていきげっそり状態です。

他の施設に代わろうかぁ…
もう仕事くんの嫌になってきた。
朝登校拒否みたいな感じで玄関のドア開けるとお腹痛くなるねん。


百戦錬磨のお姉様達でさえそう言う状況になっています。
わたしもその中の一人で仕事に行くときには胃が痛くなるようになりました。



はぁ….


ため息ばかりついててもしょうがない。
一体どうしたらいいんだろう…


夫婦で入所されていたのを引き離すからや。
ご飯も奥さんが食べさせてあげてたららしいで。
薬も奥さんが飲ませてたそうやし。

お姉様達の会話を聞き耳を立てながら



きっと寂しいんやろなぁ…..



それでもどうにかしないといけない現実に途方に暮れながらある夜勤の朝を迎えました。



汗だくのその後

その朝もフクイさんは全て拒否でした。

海の話
漁師さんの話
ご家族の話
若い頃の話

何を聞いても一切無視のフクイさん。


いちかばちか



フクイさん。
ご飯いらんならそれでもええわ。
ただお薬は飲まなあかんねん。

それは貴方の体の為やねんからな。


いつもと違い上から命令口調でフクイさんに話しかけてみました。
そしてお伺いを立てる風ではなく


ベッドでご飯食べるんじゃなくて車椅子に乗って食堂いくで。


反応を見ることは止めて車椅子をベッドの横につけて布団をめくり足を持ち座る形に持って行くと拒否もなくすんなり座ってくださいました。


お。
もしかしてこれいけそうな感じ?


何か文句を言ってる声でしたがこちらも一切無視をして車椅子のハンドレストを上げて


立てるやろ。車椅子に移ってーや。
そう言うと乗ろうとされている気配。


よっしゃ。この作戦やわ。

乗ろうとされてはいますが力が入らないご様子。
元々歩ける人なのにうちの施設に来てからはほぼ寝たきりになっていましたので筋肉量も低下されてしまったんでしょう。

がんばろうとされている。
車椅子に乗ろうとされている。

移乗と言いますのは正面から抱きかかえるのが普通ですがベッドに直角に車椅子を置いてしまったわたしは抱きかかえることが出来ませんでした。
後から腰を持ち上げて車椅子に移っていただく。

これがどうしても出来ません。

重い….
しかも足がすごく長い。

二人でどう頑張っても車椅子に乗れない。
これはわたしの失敗ですが置く位置が悪かったんですね。

挌闘すること15分。
どうやっても車椅子に乗せてあげられないわたしはフクイさんと一緒にベッドに倒れこんでしまいました。


そして倒れ込みながら笑う二人。



わたし
わたし

ごめんやで~しんどいやんな

笑うフクイさんに謝るとまたチャレンジしようとされていました。


もしかしてフクイさんって背―高いん?
足が長いので身長を訪ねると




フクイさん
フクイさん

178センチや

わたし
わたし

わおーすごい高いんやね

背が想像よりも高くそのせいで足がもつれて車椅子が近いと座れないことがわかりました。


少し遠くに置けば乗れたのにわたしの知識の少なさから乗せてあげられないことをお詫びして

わたし
わたし

もう疲れた ベッドで食べよーや

そう言うと頷いてくれたフクイさん。


そしてご飯今から持ってくるわな~と言いつつ



なぁなぁこんなに汗だくになってフクイさんを乗せようとしたやん。
褒めてーや。



厚かましくも労いの言葉を待っていると何故かわたしの頭をポンポンとしてくれました。



頭をポンポン….


笑いながら次はちゃんと車椅子に乗って食堂にいこうぜ~とフクイさんに言って朝食を運んできました。
そして少しではありますがパンとゼリーを食べてくださり難問のお薬を


わたし
わたし

ほら 口開けて

開けてくださった口に錠剤を押し込み


ご飯も少しでしたがお薬もちゃんと飲んでくださったので何とか任務を完了することが出来ました。


居室を出るときにもう退勤の時間が来ていることもあり




わたし
わたし

フクイさん わたし帰るねん まったね~

そう言うとハイタッチをしてくださいました。



はぁ….
疲れた。
もう歩く気力もない。

でも…
ハイタッチをしてくれた。

そして二人でベッドに倒れ込んだ時に笑顔を見せてくれた。
ついでに頭にポンポンとしてくれた。

それだけでもうこの日の任務が全うされたような気がして清々しく帰ってきました。


この朝のことで信頼関係が生まれたのかどうかはわかりません。
次に会う時にはどんな様子を見せてくださるのでしょうか。

ビビりながらそしてドキドキしながら次の夜勤の日を迎えたその日入院されてしまいましたが今日帰ってくる予定です。

今日はシャツの着替えを1枚多く持っていこうと思います。
フクイさんとわたしの時間をまた報告させてください。







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