人生が終わる時の選択

仕事

お休みが長く続いて久しぶりの出勤になると行くことが嫌になりませんか?

テンポ良く仕事が続いていれば1日のリズムもそう変わらないのに10日近く休みがあると気持ちが仕事モードになっておらず夕方家を出るのが切なくなってしまいます。

あ~また仕事かぁと思いながらテクテク歩くその数分で気持ちを切り替えなくてはいけないのに….

こんなことを思うのは利用者さん達のADLがかなり落ちてきて対応が厳しくなってきたからだと思います。



ADLとは

介護の専門用語にADLと言うものがあります。
わたしは介護の仕事をしているくせに専門的なことはまったくわからなくてこうしたらいい~
ああしたらいい~と出たとこ勝負な対応をしています。

何故なら利用者さんへの対応と言うのは100人いれば100通りの方法やまた行う介護者の気持ちや状況が違うのでなにが正解かと言うものが見当たらないんですね。

セオリー的なものはあっても必ずそれが当てはまるわけでもありませんし?
日々利用者さんと接して

この人はこんなんだから~
この人は多分いつもこうだから~と実践と経験で利用者さんとの付き合いの中で日々対応を変えていくことが一番正解なのではないかと思うのです。

そしてそのADLと言うものは

改めてしらべてみますと


日常生活を送るために必要な基本的な活動(日常生活動作)のこと


日常生活動作?
確か初任者研修の時に習いはしましたがわたしがよく使ってるADLどうですか~?と言うものは

立てる 歩ける 自分でご飯を食べられる 自分でトイレに行ける

一番大事なこと。
会話が成り立つかどうか

これなんですね。

会話が成り立つかどうかは非常に重要で利用者さんの言ってることもわからない。
こっちの言ってることも通じない。
すると介護は非常にしにくいことになります。

落ちてる

久しぶりに出勤しますと利用者さんそれぞれは落ちてる場合が多いです。

この落ちてると言うのは大阪だけなのかもしくはわたしの働いてきた施設だけの言い方なのかもしくは共通語なのかはわからないです。

ただ落ちてると言うのは体力であったり認知機能が下がってる…
そしてこないだの出勤の時には出来ていたことが出来ていない…するとこの人落ちてるな~と言う方になるんですね。

10日近く休んでしまうとたったの10日で落ちててびっくりすることが多いです。

歩けていた利用者さんが歩けなくなってる。
自分でご飯を食べていた利用者さんが自分で箸を持てなくなって食事介護これは食介(しょっかい)と通常言いますが食介になっていて


わたし
わたし

うわ~どの順番でいこうかな

少ない利用者さんの施設ですが一人夜勤なので朝の食介の順番を考えたりあれこれ考えて順序よく回すことを想定しなくてはなりません。

ホルモン食いに連れてってやる

ツジイさんと言う利用者さんがおられます。
確か今年で90歳。

お若い頃はタクシーの運転手さんをしておられたそうで大阪の街の道をたくさん知っておられます。

そのツジイさん。
うちの職員さんからは非常に嫌われて…
この言い方は大変失礼ですがみんなに避けられています。
何故かと言うとすぐ怒鳴るんですね。

どこの施設でも怒鳴るおじいちゃんは嫌われています。
はよせー
なにしとるんじゃー

偉そうに言うその習性は昭和のおじいちゃんそのものですがわたしは昭和のおじいちゃんの扱いが得意なのでツジイさんには好かれています。

どういうことかと言いますと職員のしてあげてる態度が気にいらないんだと思うのです。
ちょっと下に下がってさせてもらってもいいですか?と言う態度に出ると昭和のおじいちゃんは怒鳴ることはあまりありません。

例えばうちの職員のおばちゃん達は


おばちゃん
おばちゃん

オムツ交換やで~

と平気で言いますが男性…しかも上から目線でオムツ交換したるわーなどの言い方をすると


ツジイさん
ツジイさん

誰やおまえ 何言うてるねん

となってしまうのです。

それを?


わたし
わたし

ツジイさん お下交換させてもらってもいい?

そう言うと

ツジイさん
ツジイさん

おう 姉ちゃんか やってくれ 

偉そうな言い方にカチンと来ることはホントによくあります。
だけど怒らせてしまい


ツジイさん
ツジイさん

やったるわーとか誰やおまえっっ

こうなると仕事が先に進まないんですね。
ならばお願い方式で声をかけて


わたし
わたし

させて貰えると助かるわぁ….

そう言って接する方が結果お互いにうまく進むことになります。


してあげるわー
と言う言い方とさせてもらってもいい?
これは内容は同じでも受け取る側の気持ちが違います。

なのでおじいちゃん…..
施設に入ってる時点でおじいちゃん=昭和生まれの男性です。
その昭和生まれの男性に対して上からなにかを言うと反発されるのは当たり前のことですよね。

おばちゃん達から言わせるとこっちがオムツ交換してあげるのになんであんなに偉そうやねん。
こっち側の気持ちもわかります。
怒鳴られる度に蹴られる度に…
ホンマにやっかいなクソジジイやなとわたしも心の中では思っています。
そしてたまに失敗もします。

ちょっと言い方悪かったのかもしれませんが怒らせてしまい

利用者さん
利用者さん

オムツとかしてへん あっちいけーボケー

わたし
わたし

オムツしてへんならトイレいきーや

利用者さん
利用者さん

トイレってなんや


すでにトイレの意味さえ理解されてなくてご自身がオムツをしていることもわからなくなってしまっています。
そんな時に上から偉そうに言ってしまいオムツしてないならトイレにいきーやとわたしもダメダメでしたね。
一旦機嫌の悪くなってしまった利用者さんを元に戻すのは大変です。

少し間をおいて再度居室に伺うとさっきのことなど忘れている場合も多いので


わたし
わたし

こんばんは~

と別人になったつもりでお声をかけるとすんなりいくことも。


さっきのことを反省しながら

わたし
わたし

大谷君 日本帰ってくるらしいわぁ

利用者さん
利用者さん

大谷ってなんや

わたし
わたし

大谷君って世界のヒーローやん

なにやねんそれ。
ほら~大谷君やん。
大谷って誰や。
えーとなぁ。野球やってる人で世界一の人やねんで~

オムツに反応してしまったので違う話題をと作戦を変更してささっとオムツ交換を済ませました。

日々後悔と反省の日々。
どれが正解なのか間違っていたのかを探りながら仕事をしなくてはなりません。


先ほどの….
ツジイさんの居室に入るときにはまず笑顔でご挨拶をします。
こんばんは~の挨拶はとても大事なことだと思っています。
そしてオムツ交換をするために布団をめくりますがいきなりしないように….

今日は寒かったなぁ暖房ちゃんとついてる?(勿論ついてますが)
寒くない?(すごい厚着なので寒くはありません)
外は雨やから冷えんようにしような~とかとか差しさわりのないことを声かけしながら



わたし
わたし

パットの交換するからお布団めくっていい?

ツジイさんも最近会話が成り立たなくなってきてこっちの言うことが理解出来ません。
それでもなにかお願いをされている…ならばさせてやろう。こんな感じかと思います。
そしてお布団をめくりながら

わたし
わたし

春って

タクシーの運転手さんって忙しい時期ちゃうの?
このあたりの言葉はなんとなく理解されておられるので

ツジイさん
ツジイさん

そうや 春はなにかと外に出るからな

仕事が忙しい時期やな~とお返事されて布団をめくられて足元が冷えることよりもツジイさんの興味のある話題なので文句を言うことはありません。

パパっと交換して最後にズボンを上に引き上げるときには腰を浮かしてくださいます。
その間はツジイさんのしておられた運転手さんの話をお聞きしながら

そうなんや~
へぇ~すごいなぁ
大変なお仕事してはったんや~

オムツ交換も後少しで終わります。

ツジイさんは日中誰とも会話もなく過ごしておられるので昔の話をうんうん聞いてくれるヘルパーの訪問を嬉しくないはずがないと….出来るだけツジイさんのお話を引き出すように意識しています。

最後。
お部屋を出るときにはお礼を言いながらまた後でくるわな~と頭を下げて退室します。

話し足りないので呼び止められることも多いです。

ツジイさん
ツジイさん

明日な ホルモン食いに行くか?

わたし
わたし

わーい嬉しいわぁ

ツジイさん
ツジイさん

ええとこあるねん 

わたし
わたし

ツジイさんの行きつけなんやね

ツジイさんは明日ホルモンを食べに連れてってやるからな~のお誘いに喜ぶわたしに満足されてまたお布団をかぶって寝入りました。

明日って。
ホルモンって。
ツジイさんは10年ぐらいうちの施設におられますが1度も外に出たことはありません。
病気になると病院に行くために外出などもありますが往診で済む程度の病気しかしたことがないので外に行かれたことはないでしょう。

それでもきっと記憶の中にある美味しいホルモン屋さんにわたしを連れてってくれようとしてるんですね。
なので出来るだけ大げさに喜ぶ….ふりをする?
そうすることでツジイさんは平穏な心のまま過ごしていただけるのではないかと思うのです。

そんなわたしを見て日勤のおばちゃん達は



おばちゃん
おばちゃん

連れてってやるーって…

金もないのにどこ連れてく言うねんなアホちゃうか。

確かに生活保護で入所されているツジイさんがどこかに遊びに行けるはずもなくその話は願望であって過去の自分が今思い出されているのでしょう。
まともに受けてアホちゃうかと言いきるその態度だからオムツ交換やその他の介護がやりにくくなる。
これをわかっておられないんですね。

しかも


おばちゃん
おばちゃん

わーいとか喜ぶふりするのもうっとぉしいわ

でも…
利用者さんとの信頼関係が産まれるとホントに仕事とはやりやすくなる。
ならば例えそう思っていなくても?
その方の望んでる会話ぐらいすることは容易いことだと思いませんか?

そしておばちゃん達がツジイさんのオムツ交換の時に怒鳴られたり蹴られたりそんな嫌な思いをするならば寄り添う気持ち?求めておられる会話?
なんのための介護職なのかよく考えさせられています。

対応出来ない症状

ツジイさんが歩けなくなってほぼ寝たきりになりました。
それでもご本人は歩けるつもりなので歩こうとします。

よろよろとしながら立ち上がりそしてつまづいて転んでしまいます。

結構大きな体格なので転んでしまうとわたし達では持ち上げることが出来ません。

ご自身でベッドまでなんとかハイハイで行っていただきベッド際までくると下半身を持ちベッドに寝ていただくことが出来ますが居室の隅などで転んでしまうともうどうしようもありません。

そんな先日。
夜中に大きな音がしたので駆けつけると転んでしまったツジイさんがやたらキレていました。

ツジイさん
ツジイさん

おまえのせいでこうなったー

わたし
わたし

どしたんツジイさん

ツジイさん
ツジイさん

社長呼べ―おまえなんてクビじゃー

わたし
わたし

待って待って まず落ち着こう

何かにキレてもう手のつけられようがありませんでした。

ツジイさんとりあえずベッドに横になろう…

ツジイさん
ツジイさん

何がベッドじゃーおまえが突き飛ばしたんやろ

わたし
わたし

はぁ…

ツジイさんの頭の中ではわたしが突き飛ばして自分が転んでしまった。
そう言うことになっているんでしょうね。

うーん。
この場合どういう返しが一番納得してもらえるだろう….
数秒考えて



わたし
わたし

ツジイさんほんまにごめんなぁ

わたしがツジイさんを突き飛ばしたから転んでしまったんやな。
ホンマにごめん。
痛かったなぁ….

心から反省しているふり?をして謝ると納得してくださったツジイさんは


ツジイさん
ツジイさん

次はないぞ 気ーつけろボケ

腸煮えくり返りながらひたすらごめんごめんと謝りながらなんとかベッドに寝て頂くことが出来ました。

はぁ…
これ今後も続くと思うと大変やなぁ….

そんな日々が続き日勤のおばちゃん達も夜勤さん達も記録に同じことが書いてありツジイさんの対処に手を焼くことが増えてきたんですね。


感情失禁とは

ある日。
出勤して申し送りノートを確認するとツジイさんに新しいお薬が処方されていました。
それはご自身で感情をコントロールできなくなっている状態でお薬で抑えると言うものだそうです。

急に泣きわめき出したり大声で独語を(一人でいるのになにかしゃべってる状態のこと)話していたり….

聞き慣れない言葉だったので質問してみると感情失禁と言う症状でした。
年齢のこともあり脳の細胞が壊れて本来の機能が失われてしまう。
そんなことがネットには書いてありました。

そうなるともうお薬でその症状を抑えることしか出来ないそうです。
となると1日うつらうつらされてしまい覇気もなくなっていくことになるでしょう。
それでもこちらの介護が出来ない状態なのでお薬を投与しなくてはならないと….

施設側では通常業務が出来ない状態ならばそれも仕方がない。
でもそれってご自身の意思でそのお薬を飲むわけではありません。

ご家族様との関係が良好であれば相談にも乗って頂けるのでしょうがツジイさんのご家族様は全て施設にお任せしていますので亡くなった時だけ連絡をくださいとサマリー(カルテのようなもの)に書いてある状況です。


今後。もっと状態は酷くなっていくでしょう。
男気があって困ったときには助けてくれてたツジイさん。
日勤のおばちゃん達が嫌っていてもわたしには優しかったツジイさん。
もう前のように普通に会話が出来ないのかなぁと思うとこの人の人生の最後って….

亡くなった時だけ連絡をくれと言われるご家族様って…

いつか自分も老いていく世界を想像してしまい自分の意思で自分の終末を選べないことが現実にあるねんなぁと複雑な気持ちになった今日でした。

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